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永見隆幸&メリー・アーティスツ・カンパニー第6回定期公演に寄せて 『「BOBBY」~私はそこにいた』 舞台芸術批評 音楽評論家 山田純 [もっと詳しく!]



永見隆幸&メリー・アーティスツ・カンパニー第6回定期公演『Mr.ブロードウェイ』に寄せて、舞台芸術批評家で音楽評論家の山田純氏が素晴らしい文章を送ってくださいました。



「BOBBY」~私はそこにいた  山田 純


■ケヴィン・スペイシー

 ケヴィン・スペイシーは気になる俳優である。1995年の『ユージュアル・サスペクト』を見たときに味わった不思議な感覚が今でも忘れられない。他の俳優には感じたことのない曰く言いがたい特異な雰囲気を漂わせる俳優だと思った。その魅力は一言で言えば、主人公への独特ななりきり方である。主人公とスペイシーの区別が付かなくなるほど、奇妙な同化状態が生まれているのである。それは単なるイミテーション(模倣)行為ではなく、動物生態学で言うところのミミクリー(擬態行為)とでも分類すべき感性的かつ本能的な同化行為である。見事な演技であった。この映画は、個人的には、サスペンス映画の傑作の一つだと考えるが、然してスペイシーの出世作となり、またこれによりアカデミー助演男優賞を得た。

■ビヨンドtheシー

 『ユージュアル・サスペクト』の後、『アウトブレイク』や『交渉人』、また『セブンSeven』や『スーパーマン・リターンズ』などの娯楽作品でスペイシーの演技に接したが、2005年に公開された『ビヨンドtheシー』には格別の思いがある。かつてショービジネスの世界に君臨したボビー・ダーリンの半生を描いた伝記映画である。ボビーの持ち歌の一つが、フランスの歌手シャルル・トレネの作曲した「ラ・メールLa Mer(海)」(1943)の英語訳「ビヨンド・ザ・シーBeyond the Sea」だったために、映画化の際に題名として使われたものである。ケヴィン・スペイシーが制作と脚本と監督、そして主演を担当しており、言わば4足のわらじをはいた映画ということになる。その意味では、スペイシーによるスペイシーのスペイシーのための映画であり、スペイシー好きにはたまらない仕上がりだろうが、ちょっとスペイシー臭さの残るところが気に掛かるという向きがあるかも知れない。一方この映画は私にボビー・ダーリンという存在を教えてくれたという意味で重要な作品である。それまでは単なるポップ・ロック歌手だという認識しかなかったが、極上のエンターテイナーとしてのボビー・ダーリンの存在を新しい視点から掘り起こしてくれたわけだ。
 とは言え、見た目スペイシーはとてもボビーに似ているとは思えない。しかし段々と劇が進むうちに、ボビーと同化してくるから不思議である。後日、何度か本物のボビーの動画を見る機会があったものの、スペイシーの映画の方が真実の姿であるように思えてきたのである。なおこの映画で、スペイシーはボビー・ダーリンの曲を吹き替えなしで歌っていたが、その見事な歌い方も含めて、これぞ正しく『ユージュアル・サスペクト』で見せたミミクリーの極致だと思った。

■マック・ザ・ナイフ

 『ビヨンド・ザ・シー』と並ぶ、ボビー・ダーリンのもう一つのヒット曲を忘れてはならない。ドイツの作曲家クルト・ワイルの作曲したオペラ『三文オペラ』の中のアリアからとられた『マック・ザ・ナイフ』である。テナー・サックス奏者のソニー・ロリンズが『モリタート』というタイトルで発表し一躍ジャズの世界で知られることになり、次いでルイ・アームストロングやフランク・シナトラを始めとする多くの歌手たちが取り上げて、ボーカル・ポップスの名曲ともなったものである。だが、ボビー・ダーリンにとって『マック・ザ・ナイフ』は特別の存在である。ボビーの名唱によりこの曲が、全米のミリオン・セラーに輝いたというのみならず、60年のグラミー賞では、エルビスやシナトラらを抑えて、レコード・オブ・ザ・イヤーを受賞し、以来『マック・ザ・ナイフ』はボビーのシグニチャー・ソングとなったのである。しかしその13年後に、絶頂の最中にありながらも、わずか37歳で慌ただしくこの世を去ってしまった。

■ボビーの拘り、ボビーへの拘り

 『マック・ザ・ナイフ』の歌詞には2つの版がある。といっても一箇所だけのことで、歌い出しの最初の一節の部分が、「Oh, the shark has, pretty teeth, dear」であるか「Oh, the shark, babe has such teeth, dear」であるかの違いである。どちらの歌詞で歌おうが、全体の尺ではさしたる違いはないが、ボビーのファンならば譲れない拘りの部分でもある。これまであまたのシンガーが『マック・ザ・ナイフ』を歌っているが、「babe・・・such」で歌ったのは、記憶を辿ってもボビー以外では辛うじてパティ・ぺイジの名前が浮かぶだけだが、もし他にも「babe・・・such」で歌っている歌手のことをご存じの方がいれば是非ともご教示願いたい。また、上述のボビー・ダーリンの伝記映画『ビヨンドtheシー』でも、冒頭のシーンで、颯爽と現れたボビーを演じるケヴィン・スペイシーが、やはり「babe・・・such」の歌詞で『マック・ザ・ナイフ』を歌っていたことが思い出される。「babe・・・such」派は少数ながら、ボビーに拘るならば、ボビーが拘ったように「babe・・・such」で歌わなければならないのである。
 2011年、メリー・アーティスツ・カンパニーの第5回定期公演のタイトルは「BOBBY」。ボビー・ダーリンの半生を綴ったミュージカル仕立ての舞台であった。さてお馴染みのヒット曲が続いたあと、永見隆幸氏が登場して、軽やかなバンプに導かれながら『マック・ザ・ナイフ』を歌い出した。その歌詞が「babe・・・such」だったことは言うまでもない。その時、客席から舞台を眺めながらふと考えた。両者ともボビー・ダーリンのドラマなのに、この舞台公演「BOBBY」と映画『ビヨンドtheシー』とは一体何が違うのだろうか?と。

■私はそこにいた

 アメリカの著名な舞踊評論家ワルター・テリーの著作に『私はそこにいた(I WAS THERE)』という批評集がある。「いつ、どこで、何を」見たかに加えて「誰で見たか」が重要であることが記されている。つまり劇場という場所を起点として、観客の心中に去来する様々な思いや感覚や感動が重要であること、そして生身の俳優が目の前で演じているという実感は、何にも代えがたいということが繰り返し述べられている。メリー・アーティスツ・カンパニーの前回の公演ではボビー・ダーリン、今日は、Mr.ブロードウェイことジョージ・M・コーハンが取り上げられる。これら主人公たちを見ることは、永見隆幸を見ることに他ならない。そして生身の人間「永見隆幸」を見ることができるのは、「私はそこにいた」という一回限りの舞台参加体験をした人だけである。それはすなわち、舞台上の俳優と、時間と場所、そして感動を共有することなのだ。





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山田 純 YAMADA Jun 

東京藝術大学音楽学部楽理科卒業。
専門は、音楽評論、舞台芸術論、アートマネジメント論。
日本音楽学会会員、世界劇場会議理事、日本音楽芸術マネジメント学会幹事、日本アートマネジメント学会中部会長、愛知県文化振興事業団理事、音楽ペンクラブ同人、名古屋市民芸術祭審査員。
名古屋芸術大学大学院音楽研究科教授。





永見隆幸&メリー・アーティスツ・カンパニー
第6回定期公演 『Mr.ブロードウェイ』
本番当日の様子は こちらをクリック!
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http://merry2.blog.so-net.ne.jp/2014-01-18
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名古屋市芸術創造センター開館30周年記念
永見隆幸&メリー・アーティスツ・カンパニー
第6回定期公演 『Mr.ブロードウェイ』
詳細な情報は こちらをクリック!
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